先日、長年通っているボウリング場で大規模な改装工事が行われた。
ピンを並べる心臓部であるピンセッターの総入れ替えに始まり、ボールラックの刷新、ボウラーズベンチの交換、場内のクロス張替え、故障していた空調機の更新、さらにはトイレ内装の改修まで、場内の随所が“新しい呼吸”を始めていた。
しかし、これほどの改装がどれほどの費用を伴うかは、利用客のほとんどが知らない。ピンセッター1台が数百万円。それが32レーン分。そこへ最新式の操作盤とボールラックが13セット、老朽化した空調設備の総入れ替え、各所の内装工事まで含めれば、総額は億に及ぶという話もある。
かつて市内に5つほどあったボウリング場のうち、唯一残ったこのボウリング場が、ここまでの投資を決断した背景には、相応の覚悟と信念があるはずだ。
思い返せば、数年前に支配人と意見を交わした際、「値上げそのものだけではしたくないんです。お客さまに“得した”と思ってもらえるかどうかが大切なんです」と話していた。その言葉の意味を、私は今回の改装と重ねながら改めて噛みしめた。
そして実際、このボウリング場は料金改定の際に独自の仕組みを導入している。
それが「スタンプカード」だ。
大会への参加、スタッフチャレンジでのKO賞、月例会への出場など、利用客が施設を積極的に利用するたびにスタンプが押され、10〜20個貯まると金券と交換できる。この金券は、スタンプ1個につき300円相当になる。
この仕組みの妙味は、表面的な“還元”の手触り以上に、その裏にある収益構造にある。
まず、スタンプが貯まる行動は、大会参加など追加の利用行動であり、つまり利用客が“お金を使う”ことでしかスタンプが増えない。そして、金券はあくまで施設内で使われるため、原価は施設内サービスに吸収される。現金が外に流出しないため、ボウリング場としては損失が生じにくい。それどころか、値上げ額を上回る還元をしながら、実際には利益を積み増すことができる仕組みになっているのだ。
もし料金改定を単に「値上げです」とだけ貼り出していたなら、それは業務上の“作業”で終わっていただろう。しかし、この店は値上げを“創造”へと転換した。利用者が喜び、施設が利益を得て、またその利益が未来への投資へと循環していく。この循環を形にするという行為こそ、“作業”ではなく“仕事”なのだと強く思う。
そして、その姿勢がなければ、この街に唯一残ったボウリング場として今日まで存続することは、おそらくできなかったのではないか。
今回の大規模な改装についても、銀行融資があったという話を耳にした。
今の時代、ボウリング場への融資は簡単ではない。しかし、それでも融資が実行されたのは、これまでの経営姿勢が評価され、地域で唯一残るボウリング場を守りたいという思いが、経営者と金融機関の間で一致したからなのだろう。店が積み重ねてきた信用が形となった瞬間でもあったはずだ。
やがて料金改定が行われる日が来るだろう。しかし、このボウリング場であれば、ただ値段を上げるだけで終わることはない。きっとまた新たな付加価値とともに提示し、利用者が“値上げだ”と感じる以上に“良くなった”と感じられる形に整えてくる。
そう思わせてくれるのは、この店が常に“創造する仕事”を忘れずに続けてきたからだ。
最新のピンセッターが静かに光を放ちながら佇むレーンで、私はしばらくその光景を眺めていた。機械の奥にあるのは、経営者の覚悟であり、地域にボウリング文化を残したいという意地であり、そして何より、利用者と真正面から向き合ってきた年月だ。
その努力に報いるように、私はまたこのレーンに立ち続けたいと思った。
静かな空調の音に混じって、創造の気配が確かに響いていた。

