前日、愛車のフロント部分に取り付けていたドライブレコーダーが、経年劣化で根元から折れて落下した。これまで使用していたものはディーラーで設置してもらったもので、強力な接着剤でフロントガラスに固定されていた。外れた跡には接着剤や本体の破片がこびりつき、私の手持ちの道具ではびくともしなかった。
仕方なく、その横に新しいドライブレコーダーを自分で取り付けたものの、古い跡が黒く汚れて見えるのが気になっていた。いずれ専門店で相談し、専用の薬剤などで取り除いてもらおう、そう思いながらも、しばらくはそのままにしていた。
そんな折、私はこれまで依頼していたディーラー車検ではなく、地域の小さな個人経営の自動車整備工場に車検と点検をお願いすることにした。
家族で切り盛りしているというその工場は、地元でも評判が良く、細やかな対応と誠実な仕事ぶりで知られている。初めての利用にもかかわらず、受付から説明、整備の流れまですべてが丁寧で、どこか温かさを感じた。
翌日、車を引き取りに行くと、整備士の方が一つひとつの作業内容を説明してくれた。請求書の金額にも納得がいき、気持ちよく車を受け取った。
ところがその翌日、出かける途中でふと目に留まった。
あの、ずっと気になっていたドライブレコーダーの外れ跡が、見事に消えていたのだ。
磨き跡も残さず、まるで最初から何もなかったかのようにきれいになっている。おそらく整備のついでに、サービスとして取り除いてくれたのだろう。
だが、その件について店からの説明は一切なかった。
「きれいにしておきました」と一言伝えることもできただろうに、それをしなかった。
だからこそ、私はこの無言の心遣いに胸を打たれた。
最近では、どんなサービスにも“有料”の枠がつく。
たとえ無料であっても、それを積極的にアピールし、評価や宣伝につなげようとする業者が多い。
だが、この整備工場はそうではなかった。見えないところにこそ誠意を込め、見返りを求めない、その姿勢こそが、地域の信頼を支えているのだろう。
私にとってこの一件は、単なる「車の点検」以上の意味を持った。
もし次に車のトラブルや相談があったとしても、私は迷わずこの整備工場に頼むだろう。
そして、車の話題が出るたびに、きっとこのお店を人に勧めるに違いない。
見えないところで施された“ひと手間”は、金額には換えられない価値を生む。その静かな誠実さこそが、地域に根づく信頼の礎なのだと、ハンドルを握りながらしみじみと感じた。